「小津安二郎のまなざし」(晶文社)をようやく完読。ローアングルで知られる映画監督、小津安二郎の撮影術に迫る作品で、今までは物語の内容に着目しがちだったが、コンティニュイティ、簡単にいうと撮影するにあたっての台本、ある画面に別の物体を浮かび上がらせ、徐々に鮮明にさせるオーバーラップ、画面を徐々に浮かび上がらせたり、消したりするフェードイン、アウト、映像における構図の話など、実際の撮影にまつわる話が映画撮影については素人の僕にもよくわかるように説明されていて、大変面白かった。

この書籍を書いた貴田庄氏は工芸作家で、小津作品に突如現れる映像、枕元におかれた目覚した時計、風にひるがえる洗濯物、煙のたなびく煙突など、一見物語の展開とは関係ないように見える映像が作品の展開と関連して使われていることを指摘している。場つなぎ的に風景を映すことは映画の中でよくあるが、そうではなく、計算された映像だったとしたら、どうであろうか。貴田氏はこのような映像を「カーテンショット」と表現しているが、この書籍ではその他の映画技法について、小津監督の映画を通じて説明している。小津作品を味わう上ではもちろんのこと、他の作品を味わう上でも興味深い視点を提示いただき、感謝の珠玉の書である。また再読した上で気になることがあればこのブログで触れるつもりである。